第1部 はじめの一歩 |
(6)ス−プとサラダ |
養護学校に転勤して2カ月経った。 クラスの子どもたちは相変わらず、よく夢にでてきていた。どういうわけか、最初の卒業生だった6年2組の子どもたちと一緒になって、ごく普通にしゃべったり、遊んでいることが多かった。 もう20年近く前になる子どもたち。新米でドジばかりしていたけれど優しい子どもたちに恵まれていた。 夢に出てくるT君はホッとしてのんびりしていて、よく笑っていた。子どもを見失って校舎中を走り回る夢から解放されたのもこの頃だ。誰がどんな遊びが好きかわかってきたし、だいたいそんなに広い校庭ではなかったのだ。 庭に面した1階の車椅子の子どもたちのクラスでは、朝の時間は先生に抱かれて日光浴をしている。日の光にまぶしそうのに目を細めて微笑んでいる子どもたちは、天使のような愛らしさだった。しかし、その腕の細さといったら、こわれてしまうのではないか・・・そんなかぼそい腕に見えた。 しかし、この子たちがなかなか逞しいとわかったのは6月の宿泊学習の時だった。 その時、学校に泊まったのは6年生だった。夕食のメニュ−はご飯とギョウザと中華ス−プ、子どもたちが作るのだ。午後4時ごろエプロンをつけたこどもたちが調理室にやってきた。車椅子の子どもたちも一緒だった。 いつも家に帰るときに乗るスク−ルバスを見送った後なので、6年生の顔は明らかにいつもとは違う日を感じて高揚していた。 いよいよ調理だ。養護学校の先生ってさすがだなと思うのは、どの子にもやるべき仕事が考えられていることだった。 包丁を一人で扱える子もいる、教員が時々介助する子もいる。けれど、食べやすい大きさにするには何も包丁ばかりでないのだ。野菜は手でちぎったり、棒で叩けばOKだ。 ザルに入れられた豆腐はYちゃんの細い指がつかむとあっという間にぼろぼろになった。夕食のス−プには小さくなった豆腐がおいしそうに浮かんでいた。 調理=包丁+まな板と凝り固まることはないんだと教えられた日だった。 |
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