(5)おしっこはどうやってするか |
5月になって、子どもたちとの関係が少しずつ取れるようになると、教育課程の作成が始まる。クラスごとに子どもたちの発達状況が話し合われ、指導の重点が確認されていった。また生活の仕方については、10項目で実態が話し合われ、課題が決まっていった。 その中に「排泄」という項目もあった。「自分からトイレに行けるようにする。」「正しい排泄習慣を身に付ける。」大きなねらいは2つだった。 例えば項目の中にある「安全」とか「食事」とか「クラスの仕事」「「着脱、身だしなみ」「性教育」「物の管理、整理整頓」などは、小学校でも日常的に指導されている内容だ。けれど、排泄はどうだ。男の子がどこから「ちんちん」を出しておしっこをしているかなんて考えたこともなかった。どれが正しいおしっこの仕方なのだろうか・・・。 「学校では、みんなこうするよ。急がないと漏れそうになるし・・・」長男はズボンとパンツをちょっと下げて、そこから、おしっこをすると言った。 なるほど、これなら、おしりは見えない。男の子の排泄の介助をするようになってから、ちょうど一人ひとりの顔が違うように、子どもたちの排尿する時の姿勢や排尿の間隔、尿のでかた、量、色、匂い、性器の形などが違っていることに気がついた。 男の子の介助は本来なら男の先生がするのが一番だけど、なにしろ男の先生が少なかった。学校だから、まだ男子トイレに入って介助も出来るけど、これが外だったら困ってしまう。 障害者用トイレの場所や数は限られている。家庭で子どもたちの世話をするのは、たいていお母さんだ。おもらしをしないこと、一人でトイレに行けること、これが出来ると外での生活も広がりやすくなる。お母さんだって、ずいぶん助かる。公衆トイレを使うには、おしりが見えない方がいい。 こうした日々の指導というのは、1年2年の歳月を経て、子どもたちの成長がわかる事が多い。「大丈夫、この子も一人でトイレに行けるようになる。」という見通しを教員が持っていないと、おもらしのたびに、がっかりして、ただ、黙々とパンツを取り替えることになる。来る日も来る日も、「トイレに行くよ。」と子どもの手を引いて行き、「おしっこするよ。」とズボンを下げて腰が前に出るようにおしりを押して「おしっこまだかな・・・」と待つ。これは明日も続く仕事なのだ。 けれど、『明日へ続く仕事』と感じるときがやってきた。「この子も大丈夫」という気持ちは、ちょっとした子どもの成長で勇気づけられる。 なにしろ今日は「トイレに行くよ。」と言ったら、一人でトコトコ歩き出したんだ。「見て!見て!」と叫びたくなるような光景だ。そのうえ、トイレの所でちゃんと曲がって入って行った。 「すごーい!」「おりこ−う!」「えらーい!」飛び上がるほどの喜びと言うのは、このことだ。ひと仕事した彼は、便座の前で座り込んだ。 今日、彼は100%の力を発揮したのだ。ありがとう。 |
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