(8)夏のはじまり |
とても大切にしているその「遊び」の世界を体育館全体でしようというのが、小高集会だった。 前日の下校の後、会議が始まるまでの時間をぬって準備は進められた。楽屋のような職員室から、荷物がどんどん台車に積み込まれ運ばれた。週の半ばに提案された案を見ながら、フロア−に次々とセットしていく。 海になるときは、島や椰子の木、果物の籠、ボンゴグッズが定番。それに、サメが出てくる時もあった。竜宮城が出てくることもあった。太鼓を叩いて盆踊りになる事もあった。 集会案は話し合いで決められていたが、微妙に提案する担当者の個性も反映されていておもしろかった。 10時になると小高集会は始まる。雑巾レ−スが終わり、リズムや今月の歌も終わるといよいよだ。 それまで、子どもたちの目に触れないように隠されていた世界が開き始める。体育館いっぱいに大海原が広がり、青い波が押し寄せてきた時の感動は、どうすれば伝えられるだろう・・・ 「あっ!あの音楽・・・」司会のお姉さんが耳を澄ます。 「ボンゴさんだ」「ボンゴさんだ!」子どもたちは、去年の夏の終わりに去って行ったヒ−ロ−の名前を覚えていた。「そうだ!声を そろえて呼んでみようよ。」「せ−の−!」「ボンゴさ−−ん!」 呼び声で、ビュ−ン!とロ−プにつかまったボンゴさんが目の前に登場した。ここで登場と、あらかじめわかっていてもうれしくなる、そんな登場の仕方だった。 ボンゴさんを見た瞬間から子どもたちは目が釘付け、おしりは半分浮いている。 「やあ!みんな元気かい!ここへおいで!」ボンゴさんがそう言うのを待っていたように、ステ−ジへ上がっていく。静かに幕が下り、音楽も大きくなる。「一緒に、ボンゴボンゴを踊ろうよ。 ボンゴボンゴボンゴ、ボンゴボンゴボンゴ、ボ−ンゴ、ボンゴボンゴボン!懐かしい人に会ったうれしさが軽快なリズムに踊り出す。 「そうだ!みんな、ぼくの島に行こう!島はとっても素敵だ。おいしい果物もあるぞ。」ステ−ジの幕が静かに上がっていく。眼下に青い波が揺れていた。 そうか・・・いつの間にかぼくらは、砂浜に来ていたんだ。そして、遠くに見えるのがボンゴさんの島だ。あんな遠くまで行けるかな・・・波は足元を洗うように揺れていた。 おだやかな南の海だ。けれど、見ているうちに波が少し大きくなったような気がした。そして、急に、ザザザザザッーと音がして波が走り出した。とっさの時って体が動かない。一足はやく海に入っていた子は、呆然として近寄ってくる波に動けないでいる。 助けなくっちゃ、走っていって手をつなぎ、砂浜まで逃げてくる。高波だ!海の神が波を持ち上げ走ってくる。波は砂浜を駆け登り、みんなは一瞬にして飲み込まれる。海の中の青い世界。そう思った時、波は頭のうえでくだけて沖へ帰っていく。波は何度も押し寄せてきた。 こうして、私たちの夏がはじまった。 |
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