1.集会
学校でしかできないことをダイナミックに
 みなさんは、「集会」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか。この実践を見ると、「ん?これが集会・・・??」と、これまでのみなさんのもつイメージとは違うものかもしれません。でも、ここで紹介するのが長い実践の積み重ねの中で得た私たちの『集会』です。

 小学部高学年の友だち全員が一同に会する小高集会。クラスごとに体育館に集合です。1年を大きくいくつかに分けて、いくつかのシリーズをつくり取り組んでいます。

 季節感を考慮したり、その内容が楽しめるように繰り返したり発展させたりができるようにし流れが途切れないようにしながら、3〜4,5回ぐらいずつに区切っています。

 「今日はどんな楽しいことが待っているのかな」
 「ボンゴさん来るかな」
 「シューッてやるのかな(すべり台のこと)」

   朝から期待がいっぱい。

 さあ、今日も雑巾レースから始めるよ。
 「ヨーイ スタート!」きれいになった広い体育館でリズム運動をしてから、“始まりの会”です。この会の間に、係の先生たちはテキパキと次の準備。みんなが気づかぬ間に、フロアをまったく違う世界に大変身させるのです。
 みんなで集まるからこそダイナミックに取り組みたい、学校だからこそできることに取り組むおもしろさです。実践を重ねる中でそんなことがおさえられてきました。

 始まりの会では、ちびっ子リーダーが活躍します。
 ちびっ子リーダーは順番にまわります。みんなの前に立つのはちょっぴり緊張するけれど、マイクを通して元気な声が響きます。リーダーのやり方は、子どもに合わせて工夫していますが、中でもクラスを呼ぶ順番の決め方はおもしろいです。端から順番に呼んだり、カードを用意して選んだ順番からと言う時もありますが、「○○ちゃーん、こっだよー!」とそれぞれのクラスがちびっ子リーダーを呼び、その子が来てくれたところから呼ぶという順番決め。みんな優しい声や大きな声を出してアピール合戦になります。
 リーダーという意識をもつことはなかなか難しい子も、アンテナをピンと張って自分の力を精一杯出して頑張る場面でもあります。

 その後は今月の歌。簡単な振りがついています。クラスの朝の会でもうたっていきます。それが終わるとみんなが楽しみにしているメインの活動にうつります。


楽しさ運ぶ『ボンゴ』さん
 「ボンゴさーん」ハワイアンのメロディが流れます。
 今日はどこから現れるのかな?キョロキョロ探すみんな。ターザンのように現れて、ドスンと落っこちてびっくりした時もありました。ギャラリーから降りてきたこともあったし…。「あれ?あれ?」と連発するマー君。今日はステージの上からロープで降りてきます。「あ、ボンゴさんだ!」みんなの視線が、上に集まります。この表情がたまらない!ほらほら口を開けっぱなしのトシ君。自分の指の世界に酔いしれていたアキコさんも、ニコニコみつめています。先生たちもワクワク。
 
 「さあみんなでボンゴ島へ行こう!」振り向くと、そこは一面の海。
 向こうには、南の島もできています。さっそく服を脱ぎ出す子どもたち。そこへザザザッ…と大きな波。ザバーンと海面が迫ってきます。先生がシートの両端をもって向こうから走ってくると、みんなを包み込む大きな波ができるのです。「キャ−」先生も思わず一緒に叫んでいます。
 
 でも、そんな波の勢いも何のその。見るともう、泳ぎだしている子がいます。こういう主体的活動こそ、大切にしていることです。波にもまれながら、向かっていく逞しさ、車椅子の子どもたちもスノーボートの舟に乗り込みました。水を怖がる子も今日はへっちゃら。いつもならカッとんでいるテツ君も、ボンゴさんに誘われて南の島へ向かいます。

 もう島についている子どもたちは、「オーイ」と呼んでいます。海の中でいつまでも感触あそびになる子もいました。しかし、とっさにその脇で先生がおぼれ役。「助けて!」

 すると重い心臓病のためプールはいつも見学だったタカシ君が、二人を助けにとびこみました。それを手伝うヒデアキ君、近くの浮き輪を投げてあげました。思わずみんな拍手!

 毎回の反省を生かして、少しずつ発展していくストーリー。ボンゴ島では奥さんも出てきてみんなで踊ったこともありました。「じゃあ、またね。」ボンゴさんが海の中へもぐって退場する時もありました。われ先に追いかける子どもたち。トモちゃんは、じっと見送り「あーあ、いっちゃったね。」とポツリ。そうだね、ボンゴさんは楽しさを運ぶ人。みんなでたくさん泳いで踊ったものね。


『ウータン』だよ!
 冬には雪山から「ウータン」がやってきました。
 「いっしょに遊ぼう。山は真っ白だよ。」振り返るとそこは雪山。一面の紙吹雪の雪国に「ワーッ」と飛び出していく子どもたち。

 すべり台も作りました。紙吹雪の量は、大きなビニール20個はあったかな。すべり台は夏休みに製作。縦につなげば、10メートル、横につなげば大勢で〃シュ−〃。誰もが夢中になってすべりました。すべり台が怖かった子も今ではとりこ!


コチョコチョ星へ行こう!
 毎年3学期は、雪あそびが定番となっていた小高集会ですが、今回は新しいものに挑戦というわけで、日頃みんなの大好きなくすぐりを中心にした遊びを取り入れました。
 
最初は、ステージ上のロケット(パイプ椅子を入れておく台車。よくステージの下に収まっているあれです。椅子を全部出してしまえばロケットです。)に乗りこんで、シュミレーションビデオを見ながら宇宙へ出発。前へ後ろへと動くともう飛んでいる気分。

 緞帳があくと、ミラーボールのまわる星の世界「コチョコチョ星」に到着。そこにはくすぐりが大好きなコチョコチョ星人が待っていて、みんなをくすぐりはじめます。さっきまでそばにいた先生たちもいつの間にかコチョコチョ星人に変身していて…という内容。
 大きな道具は何もないけれど、みんなの心が大きく揺さぶられました。“くすぐって”とそばにくる子、逃げて楽しむ子、自分がコチョコチョ星人になっちゃう子、どの子も大好きな内容になりました。


やさしい狼だよ
 「赤ずきんちゃん」の編作(?)「狼なんてこわくない」での遊びの時のこと。
 多動のマコちゃんが、頭の上までつり上げられて、初めて狼に注目できたよさはありました。でも、狼につかまった子が「コワイヨー!!・・・」檻の中でワーワー泣いています。
 「えー? あの元気印のヤス君もトオル君も泣いてるの?」
職員室で話題になりました。
 「みんな恐がっているよ」
 「このまま終わりにしちゃ、まずいね」
結局、狼にみんなで果物をあげて、仲よくなることになりました。
 すると・・・どの子もわかるんですね。果物をあげる時の緊張した顔が、「仲よくして」の狼の誘いにスーッと表情がやわらぎ、ニコニコと手をつないで踊ります。「どの子もやさしいんだね」「みんな仲良し大好き」私たちの学んだことです。


演出・構成の工夫
 集会の中では、ダイナミックな取り組みに加え、ストーリー性を大切にしてきました。
 ストーリーとしての流れがあるから、子どもたちも見通しが持ちやすくなります。そして、ストーリーの中には必ずキャラクターが登場します。ストーリーをより明確に子どもたちに伝えるために必要であるとともに、このキャラクターこそが、さらに重要な役割を果たしているのです。

 子どもたちは、キャラクターの雰囲気や動きから自らが感じ取って動き出します。
 「こうしなさい」と指示をしている訳ではありません。思わず動いてしまうのです。こうした楽しさや怖さを感じ取る感情の部分を育てることが、好奇心や興味の広がりにつながって行くものだと考えています。

 また、子どもたちの中に、キャラクターの存在を信じる気持ちや憧れの気持ちも生まれてきます。私たちは、そんな子どもたちの気持ちを大切に育てて行きたいと思っています。
 キャラクターの正体は決して明かしません。「あれは○○先生がやってるんだよ」等というのは、子どもたちの気持ちを育てるためには決していい指導とは言えないと思うからです。子どもたちの気持ちに寄り添って、夢の世界を演じ切ることも大切なのではないでしょうか。教員は子どもたちにとって、“素晴らしい役者”でありたいものです。

 夢の世界の演出は、キャラクターの登場だけでは難しいものがあります。そこで考えたのが場面変換です。
 今まで自分がいた空間が、ガラッと夢の世界に変わってしまう。体育館のフロアーを夢の世界に変化させるのです。これもガサガサと準備しているところを子どもたちに見せては、効果がありません。子どもたちが「あれあれどうなっているんだろう」と思えるように分からないように変換させなければなりません。そのためにストーリーの流れの中に体育館を暗転させる場面を作ったり、ステージに入り込む緞帳を下ろす場面を作ったりして、その短時間のうちに夢の世界に変換させるのです。

 宇宙や海、雪の世界に変化する夢の世界は、イメージの持ちにくい子どもたちにとって、より本物に近いものでなければなりません。本物に近づけるためには大掛かりな準備が必要になります。準備したものを出しやすくて子どもたちには見えない場所に隠しておくことも必要です。
 
 そして、準備に何人必要で、そのとき準備に抜けても子どもたちの活動に影響が無いかなど、綿密な計画を立てるのです。また、誰が何を何処に設置するのかもしっかり打ち合わせします。

 このように子どもたちがハッとするような効果を考えた綿密な計画で、夢の世界が誕生するのです。集会では欠かせない、私たちのこだわっていることの一つです。「目指せディズニーランド!」そんな叫びがまんざら冗談ではないのかもしれません。


B.G.M.へのこだわり
 ストーリー性を大切にしている集会で欠かすことのできないものにB.G.M.があります。
 ストーリーの流れを分かりやすくする効果とともに子どもたちに雰囲気を伝えるのには絶大な効果があります。

 ストーリーの流れに合わせて、何処でどんなB.G.M.を使うのか。
 「ここはキャラクターや友達と楽しく関わるところだから、楽しさが伝わるような明るい曲」
 「ここは、キャラクターに追いかけられるところだから怖〜い感じの曲」
この選曲によって、子どもたちが感じ取る雰囲気の感じ方が変わってしまうのです。

 同じように怖い感じの曲でもインパクトの強い曲と弱い曲があります。十分に曲を吟味して、雰囲気を伝え切れるものを選び出す作業がとても重要なのです。
 思いどおりの曲が見つからないときは、ミキサーを使って自分たちで作り出すことも。雰囲気が思い通りに伝わらなければ当然ねらい通りの活動も引き出すことはできません。「集会を生かすも殺すもB.G.M.次第」と言っても過言ではないのです。

 ひとつの集会で、B.G.M.は数曲使用します。
 この数曲をかけるタイミングも重要なポイントです。
 「キャラクターがこの言葉を言ったらこの曲を」
 「暗転すると同時にこの曲を」
こうした事前の打ち合わせと綿密な計画は、欠くことのできないことです。
 
 さらに実際に集会の流れの練習を繰り返してタイミングを計ります。タイミングを外すことで集会の流れが変わってしまうこともあるのですから。
 これだけこだわっているB.G.M.。担当になった教員は、緊張の連続。それでも、得るものは大きいそう思っています。

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