第3部 授業づくりのノウハウ
(1)授業設定で大切にしていること
 授業の基本は、子どもの発達に即した授業を展開することです。それについては、第1章に書きました。ここでは、授業づくり手法的な側面を中心に書きます。

1.ヒントは子どもの中から
 題材を選ぶ時、日常のあそびの中から考えていきます。
 くすぐりが好きな子がいた時には、みんなでくすぐりっこができるような授業にしていきます。人形が好きな子がいたら、みんなが一つの人形に向かえるようなものを考えていきます。滑り台が好きな子がいたら、大勢で一緒に滑ることができる滑り台を用意したいと考えます。「一人が楽しめるものをより大きく、みんなで共有できないか」という視点を常に持っています。
 子どもの心には「きれい」「大きいな」「何だろう」「わ一、いいな」「なってみたいな」「おもしろそうだ」「びっくりした」「恐い」など、たくさんの感情を表す言葉があります。そういった言葉を、私たちが見逃さないようにしていくことで、教材のヒントにしていきます。
 子どもたちは日頃たくさんの自然を体験しています。「海」「山」「雪」「川」「雷」「宇宙」「動物」「植物」等々。それらのイメージは、子どもたちの中にも定着していることが多いようです。その中から、教材として再現することは、子どもたちへの働きかけとして有効なものになります。自然の大きさを再現するのですから、大きな集団での授業にはもってこいのものなのです。
 また、それらを備えた文化として「絵本」「手遊び」「うた」「おもちや」などがあり、子どもたちはこれらに興味を示しています。子どもたちの興味を引き出す元題材として、これらをヒントにしていくことも多くあります。

2.ストーリー性を考えて
 一口に授業といってもいろいろな形態があります。
 ことに集団を意識した授業では、全体を一つのストーリーのように構成することを大切に考えてきました。一つひとつの活動が区切れてばらばらなものではなく、前後の活動に関係性を持たせ、因果関係(ストーリー性)を持たせていきます。
 子どもにとっては、事前にストーリー展開は分かりませんが、活動を行う中で、ストーリーを体験するように努めます。また、一時間の流れの中のストーリーだけはでなく、その授業の単元としても工夫していきます。

 例えば、集会などの一つの単元の中で、同じ内容であっても、1回目と2回目でその展開の仕方を変えていったり、単元としての4回でその集会が完結するようにするのです。
 ストーリーの構成を考えていく上では、単元の中で子どもたちの主活動となる内容を変えることで展開するのではなく、演出や場面転換などを工夫することで行います。体育館のフロアーもステージを使うことによって子どもたちに作業を見られる事なく全く違ったものに変えるとが可能なのです。
 子どもたちの中には不思議な気持ちを持つ子や、案外自然な流れとして場面転換を受け入れられる子などさまざまですが、作業を見せその仕組みを知られてしまうよりもずっと有効に作用します。

3.場面転換を工夫して
 基本的には、教室だけで座ってするという授業形態では考えません。いろいろな空間を使って行うことを視野に入れています。

 先にも記しましたが、体育館では綾帳を使うことでステージとフロアーを2つの空間に仕切ることができます。そのステージというのは、赤ずきんちやんのおうちになったり、宇宙船小高号になったり、川下りの船になったりといろいろに変化させることができます。また、体育館のフロアーを使う時でも、海のように敷き詰めたシートをめくって大波を作り、子ども達にかぶせる。
  すると、今までと全く違った風景になります。その時間をフロアーの場面転換に使ったりします。(集会のページ参照)また、フロアーの一部を壁で仕切ることで、現実の空間と花の国というようなお話の空間に変えることもできます。

 体育館だけではなく教室でも場面転換が必要な時は、2つないしは3つの部屋を利用して授業を展開することがあります。もちろん、廊下も大切な場面転換の場所になるわけです。
 廊下というのは狭いので、暗幕やシートで区切れば、手軽に別の空間に仕立てあげることができます。廊下を暗くした空間で、映画のように創作ビデオを見る。そこへ、バスのお迎えが来て、そのビデオの世界が教室の中に再現してあったりすると、子どもたちがその世界に引き込まれていく事は想像できるのではないでしょうか。
 教室も、前と後ろの空間で使い方を変えたり、机やロッカーの類いを使って、その上にベニヤ板をのせることで、上下の関係を作ったりして工夫します。
 光の使い方も場面を変える時には効果が出るものです。暗幕で暗くできる空間であれば、照明を落としたり、スポットライトを使ったり、ブラックライトも使うことができます。スポットライトも当てる方向で全く違った効果が出るものです。さらには音の転換を併せて考えると、その場面が非常に劇的に変わることもあります。

 場面転換では、一つの要素だけを考えるのではなく、空間、照明、音などといった複数の要素を同時並行的に変えていくことで、その効果をより有効なものにしていきます。
 場面転換の方法を考えていく時には、ダイナミックな展開を考えることで、集団全体を引き込もうと考えていきます。また、ダイナミックな設定をすることで、集団の行動の流れを途切れさせないという効果を生み、集団の一人ひとりが存分にそれを体験し、みんなで同時にその思いを共有できることが大切なのです。

4.キヤラクターの登場
 授業を進めていく時にキャラクターを使うことが多くあります。
 このキャラクターは、その使い方次第で、大きな効果があるものです。私たちがキャラクターになる時、先生としてではなくてキャラクターそのものとして子どもたちの前に立つようにしています。そのためには、単純なお面ではなく、子どもたちから視線を向けられた時、はじめは誰だかわからないようにかぶり物や衣装など、その姿全部に工夫を凝らしていきます。

 ぬいぐるみなどを作る時も、子どもたちの視線の高さに応じて、目の位置や目の表情を工夫していきます。そのぬいぐるみキャラクターに接した時に子どもたちが持つ印象を考えて製作し、登場の仕方や動きも考えていくのです。(集会のページ「ボンゴさん」の部分やその他のキャラクター登場の部分に詳しく書かれていますので参照してください。)キャラクターを死なせるのではなく生かし切る方法を考えます。

 松岡享子さんの「サンタクロースの部屋」という本に、サンタクロースのことがこう書かれていました。
    「子どもたちは遅かれ早かれ、サンタクロースが本当は誰かを知る。
    知ってしまえば、そのこと自体は他愛のないこととして片付けられて
    しまうだろう。しかし、幼い日サンタクロースの存在を信じることは、
    その人の中に、信じるという能力を養う。私たちは、サンタクロース
    その人の重要さのためでなく、サンタクロースが子どもに働きかけて
    生み出すこの能力ゆえに、サンタクロースをもっと大事にしなければ
    ならない。」

 アメリカの文芸評論家の一文ですが、ここには私たちの、キャラクターに込める思いがそのまま書かれているようで、感激したものです。
 サンタクロースもよく登場させたりしますが、「誰がなっているんだよ」というようなことは、どの先生も言ったりはしません。子どもたちの信じる心を育てたいのです。夢を持たせてあげたいのです。心の中の広がりを作ってあげられたらと考えています。

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