(4)くすぐりあそび 〜コチョコチョ星人登場〜 | |
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(1)怪しい姿の“コチョコチョ星人”。その必殺技は・・・。 「キャハハハ、キャハハハ」笑いながら走り回っているヒロくん。黒の全身タイツに身を包み、腰をくねらせてアイマスクを逆さにした、見るからに怪しげなコチョコチョ星人に「もっとやってよ〜」と、近づきます。「危ない、ヒロくんがコチョコチョ星人にやられてしまう!」でも大丈夫なのです。コチョコチョ星人の攻撃は、みんなが喜ぶ“くすぐり”だから・・・。 必殺技の誕生 このシリーズを担当したグループの教員は、「何か新しいことを始めよう」と、話し合いを始めました。いわゆる“産みの苦しみ”という状態です。でも私たちには、この苦しみも楽しい一時なのです。この苦しみがあるからこそ、内容が固まって提示したとき、子どもたちのニコニコ笑顔や意欲的な活動が見られるのだから・・・。 話し合いでの基本は、「障害や認識の違いはあるけれど、みんなが楽しめるものにしたい」そんな思いで一致していました。今までの集会の中でも集団に入れない子やみんなの後ろをウロウロしている子はいたのです。そんな子どもたちをどうしたら巻き込んでいけるのかという、私たちにとって大変大きなテーマでした。 話し合いの中で、日頃の子どもたちの様子を思い浮かべて、子どもたちの好きなものを考えて、さまざまな意見が出されました。そして候補に挙がったのが、“くすぐり”“ぐるぐる回し”“おんぶ”の三つでした。どれも子どもたちが大好きなものです。そして、「みんなで一斉にできるもの」こんな観点から、“くすぐり”を選択しました。 これをどう集団の活動として取り入れて行くか。ここからが内容の吟味です。「それはちょっと難しいよ。」「こんな提示の仕方をすればできるかもしれないね。」等々、とっても真剣な話し合いの場。授業を生かすも殺すも、この話し合いでどこまで内容を膨らませることができるか、どこまでみんなのものとして練り上げ、共通理解が得られるかにかかっているのです。 ちょっと一言 でも、こうした話し合い(批判し合ったり、一つの案をみんなで膨らませたり)って難しいと思いませんか。どうしても自分や相手の立場とかを考えてしまって、「こんなこと言ったらどう思われるだろう。せっかくあの人が言ってるんだから。」と、遠慮してしまう。そして、結局一人が出した意見がそのまま通ってしまって、子どもに提示したら反応が思わしくなかったりして・・・。多くの人がこんな経験をしているのではないでしょうか。 教師集団は、「いい授業を展開したい。授業の中で子どもたちの活動をできるだけ引き出したい。子どもたちの生き生きとした表情が見たい。」と言う思いでは一致しているのではないでしょうか。 私たちの話し合いも、この一致した思いを基にした信頼のうえに成立していたのだと思います。さらに、「授業の善し悪しを決定するのは、その授業を練る段階にある。みんなでいいものを作っていくんだ。」という考えが共通のものになっていたようです。だからこそ、みんなで意見をぶつけ合って、真剣な話し合いが展開されたのでしょう。 そこには遠慮等というものは入り込む余地がなかったのです。これがチームで取り組んでいる良さではないでしょうか。一人の考えをそのまますべて受け入れてしまうのではなく、みんなで修正やアドバイスを加えながら、時には否定し、練り上げていく。この繰り返しがいい授業を生み出し、子どもの生き生きとした表情や活動につながって行くのです。 そして、そんな子どもたちの様子を見ることで、教師それぞれがそれを作り上げたことを実感し、チームである教師集団の信頼が高まっていくのだと思います。また、こうしてチームの質が高まることで、個々の教師の質も高まっていくのではないでしょうか。 (2)見ろ。あれがコチョコチョ星だ! 楽しい演出をしよう さて、話を戻しましょう。内容の吟味(真剣な話し合い)がどう展開していったのか。 “くすぐり”を集団で行うためには、教員が全員くすぐる役にならなければなりません。しかし、ただくすぐったのでは面白くありません。そこに効果的な演出を加え、いかに流れを作り出すか。 「くすぐる役とくすぐられる役がはっきりするといいね。」 「教員がパッと変身したらどうだろう。」 「でも、変身するところが子どもたちに見えたら面白くないよ。」 「簡単な小道具を使った変身にすれば。」 「アイマスク(よく仮装で使うやつ)を使ったら。」 「暗幕を使って、一瞬真っ暗にしたらどうだろう。」 こんな意見がまず出てきました。 そして、「くすぐっているときに音楽が欲しいよね。」「“ガオー”の曲で踊ったらどうだろう。」(“ガオー”というのは、その頃『画王』というテレビのCMに使われていた曲です。文化祭の企画の中でオリジナルダンスを作って踊ったことがあって、みんなには馴染みの曲。その踊りの中に、くすぐりをするところがあったのです。)「くすぐりのところを編集で少し長めにしたらいいんじゃない。」こうして“くすぐり”の場面の演出が生まれたのです。 星の世界にようこそ 中心の活動場面が決まれば、あとはそこにどう肉付けをして、夢の世界 (ストーリー)を演出していくかです。ここでは、暗幕を使って暗くするという演出が発想を引き出すポイントになりました。 「せっかく暗幕を使うんだから、ミラーボールを回したらどうだろう。」この一言でみんなのイメージが一致したのです。無数の光の粒がキラキラと輝き、回る世界。そうです。それは、光り輝く星が無数にある宇宙なのです。その中の一つの星が“くすぐり”の舞台。 ここまで来ると、連想ゲームのようにポンポンとイメージが膨らんでいきます。「宇宙に行くのならロケットに乗ろう。」「ロケットだったら“坂滑り”の時のシミュレーションを使おうよ。」「そうすれば、シュミレーションを見ている間に星のセッティングができるよ。」「緞帳を使って場面転換もできるね。」 こうして、一つの夢の世界が完成したのです。 みんなでステージ上に用意したロケット(パイプ椅子のケース)に乗り込む → シュミレーションビデオを見ながら宇宙へ出発 → 到着して緞帳が開くと、そこは周囲にミラーボールの星が キラキラと輝く世界が広がる → ここはあるひとつの星、その名は『コチョコチョ星』 → そこに登場するのが、くすぐり大好きの“コチョコチョ星人”。 子どもたちをくすぐりの世界に誘い込む → 一瞬暗転し、明るくなると一緒にいた先生も“コチョコチョ星人”に変身 → “ガオー”の曲が流れて、楽しいくすぐりの世界が展開 → 楽しい夢の世界との別れを惜しみながらロケットに乗り込み、 シュミレーションビデオを見ながら現実の世界に戻る。 “産みの苦しみ”の結果、こんなに楽しい夢の世界ができあがりました。 (3)コチョコチョ星人の誕生 たれ目は あやしく笑う 内容が決まれば後は実際に体育館で、そのとおりやってみて内容のチェックです。実際にやってみるとひとつ問題が出て来ました。教員がつけるアイマスクが、“吊り目”状態で怖い感じがするのです。「これでは子どもたちが近寄って来ないかも・・・。」 と、少し心配になってしまった私たち。 ほかの変身小道具を考えてもなかなかいいものが見つかりません。しばらく考えて出した結論が、アイマスクを逆さにすることでした。これなら“たれ目”で、とっても愛嬌があるコチョコチョ星人になります。 細かいようですが、このように子どもたちがどう感じるか、どう反応するかなども、教員の頭の中で確認しておくのです。そして、問題がありそうな事柄については、事前に修正しておくのです。こうした準備が、授業の中での子どもたちの活動をより効果的に引き出して行くのです。 人知れず努力の日々 子どもたちがコチョコチョ星に着いたときに、誘い込むキャラクターとしてのコチョコチョ星人も出そうということになりました。そして、ある一人の教員が、このキャラクターを担当することになったのです。 そのときからこの教員は、役作りへと没頭していったのです。 衣装は全身タイツに決定。カチューシャに針金でボールを二つ付けました。ちょうど触覚のように。自分の家に帰ると、この衣装を着けて鏡の前に立ち、どうやって体を動かせば、くすぐられた楽しさが表現できるかを研究する毎日。 通勤の車の中でも、どんな声を出したら楽しい雰囲気を盛り上げられるかを自分なりにいろいろな声を出して研究する毎日。人知れず役作りの研究を重ねて行ったのです。 こうした努力が、子どもたちに効果的に雰囲気を伝えて行くのです。キャラクターばかりではありません。教員一人一人が、自分はどこでどう動いたらいいかを頭の中でシュミレーションして、自分の与えられた役に精一杯取り組む努力をしているのです。こうした全体の雰囲気が子どもたちに伝わって行くのです。 一人一人の努力の結集が、チームに反映されていくのではないでしょうか。 |
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