(2)みかんグループ |
いわゆる機能水準の偏りと機能のひとり歩きをしているというグループです。 日常生活の動作はほぼできていて、運動能力も高く“こんなこともできるの?”というような物の使い方まで知っています。でも、なぜか集団から外れてしまう、遊びもなかなか拡がっていかない、そんなグループです。 大きく分けて2つのタイプの子どもたちがいます。 (1) 大変エネルギッシュで活動的な子どもたち 自分のやりたいことが先行してしまい、その思いを強く出し続ける子どもたちです。 突然、教室から飛び出していく。自傷行為や他傷行為がある。暑い、眠い、疲れた、うるさい・・・・と、けっこう事細かなところで興奮しやすい・・・と、まさに勢いのある子どもたちです。遊びもこだわりも精一杯!暴れ方も全力ですが、決して人を拒否していませんから、手応えのある子たちでもあります。 (2)ひっそりとおとなしい子どもたち おとなしくて、どこかに行ってしまうとうこともないし、いろんなことができ生活上ちっとも困らない、でも<集団に入れない><遊びがない><指示待ちである>といわれ、どうもつかみどころのない子たちと思われてきた子どもたちです。 実は、まわりからの刺激にものすごく敏感で、不安なのです。まわりの世界を独特な受け取れ方をしてしまい、うまく調節や処理ができない状況があるのかも知れません。そのあたりは、最近の研究で少しずつ明らかになってきています。 とにかく“自分のまわりは不安だらけで、安心できないぞ”と絶えず気を配り一定の距離をおいて過ごしている子どもたちです。窓辺に座り込み布をパタパタと表にしたり裏にしたり、あるいは部屋の隅に座り込みつばを出しては手につけていたり、耳をふさぎ続けたり・・・。それぞれがそこにいること事体を安定させるために、全力を注ぎ込んでいるかのようです。 大変なことかもしれませんが、この子らの独特な世界の理解に心を寄せ、まずは安定した状態をつくりだし、ささやかな自己表現をはぐくんでいくこと、納得しながら少しずつ世界が拡がっていくようしっかりと心の支えになっていくことが大切です。 指導について 本当は、このグループの指導は前述の2つのタイプに応じ、分けて指導した方が良いと思います。以前は私たちも分けて指導していましたが、現在は子どもの人数と教員の体制上ひとつになっています。 タイプこそ違いますが、このグループの子どもたちに共通しているのは、象徴機能の獲得の困難性です。やっていることの意味が分からない、意味が見えないのです。本来なら、他機能の発達とともに人とのコミュニケーションが意味をもって受けとめられていくのですが、それができていない。そのため、大人のやっていることの意味が見えにくい。また、自分のもっている力が意味をもってなかなか使えないのです。だから、いろいろできるのに遊びでも生活でもなかなか拡がっていかない・・・ということになります。 象徴機能に弱さがあると、なかなか言葉がでてきません。あるいは言葉があっても、それがなかなか意味あるものとして使えていきません。また、模倣的な身振りから見立てへの発展もなかなか難しいです。模倣もやるにはやりますが、そこに意味が入っていかず、ただやっているだけになってしまいます。 言葉がなかなか出てこないということは、自我の育ちとも大きく関連していて、行動面では大人の意図を受けとめての行動になりにくいため、どうしても欲求に支配された行動となりやすく、パニックに陥りやすくなります。自分のやりたいことを相手にわかるように表現できるようになったら、パニックを起こす必要はなくなるわけですが・・・・・。 意味がみえること・・・これがキーワードとなっているわけですが、そのために何をしていくことが大切なのでしょうか。それは、2つあると思います。 意味がみえるためには、対人関係を豊かにしていくことが大切です。象徴機能は相手が意味していることを自分の中に取り入れることを通して獲得されていきます。そのためには、相手に気持ちを向けていくということが必要です。対人関係を通していろいろな遊びや物の違いや用途、その意味などを知っていくのです。 意味がみえるためには、見通しがもてるようになることが大切です。意味が見えないからどこかへ行ってしまうのです。意味が見えないから、いちいち言われないとやらないのです。先生が何かをやり出した時に“あっ、次は○○が始まるぞ”と意味がみえれば積極的に活動に参加してくるようになってきます。子どもにとって意味が見えるということは、見通しがもてるということです。 それでは、子どもにとってどんなことが意味として見えやすいのでしょう。やっぱり楽しいということが意味として見えやすいです。楽しいことを通して相手に気持ちを向ける、楽しいことをしてくれる大好きな大人だから、その活動に目を向け同じことをしてみたいと思うのです。実はこの“大人と同じことをしてみたい”という気持ちをどう育てていくのか・・・・これがとても大事なことです。そのために、まずは“この先生となら頑張ろうかな?”という心の支えとしての大人になれるよう、地道な積み重ねを大切にしたいです。 毎日の学習はなかなか難しいグループなのでそう簡単にはいきませんが、具体的には以下のようなねらいをもって活動を組み立てています。 ・音声や動作における模倣を豊かにすること ・手の操作性を高める定位活動を育てること。物の使い方を拡げる ・大人とのやりとり遊びを拡げること ・ 見る活動、聞く活動、実際にストーリーに参加する活動などを通して、好きな場面をつくること ・場面の区切りに気づき、次の行動に自分から移すこと ・自分の感情や思いを表現する力を育てること ゆさぶり遊び、リズム運動、あいさつ、手あそびなどは、授業の前半として毎回取り組んでいます。大人が正面に立ってモデルとなると、模倣する力の育つグループですので、曲や道具など前段の工夫をし、何が始まるのか見通しをもたせながら自分から取り組めるようなものにしています。 そして、見る活動はこのグループでも大切にしています。お話というよりは、好きな場面をつくるというイメージづくりの前段ですが、集中して見る力を伸ばし楽しめるようになってほしいと取り組んでいます。 まわりからの刺激に過敏な子が多いので、初めの頃は特に集中しやいすように部屋を暗くしてスポットをあてたり、ブラックライトを使ったものを取り入れることが多いです。その子たちの好きな音楽を使ってパネルを操作していくミュージックパネルは、とても人気があります。繰り返し取り組み子どもたちもパネルの操作に加わえていくことをする中で、順番にはったり位置を決めたり裏表を意識したりなどというとも一緒に楽しめるようになってきます。 ここで紹介する実践は、授業の後半で取り組んだものです。「おや何だろう?」と気持ちを向け、「やってみたいな」と思えるような授業づくりをしてきました。それから「今、まだあまり好きじゃないナ」と思うものでも、「きっと好きになるヨ。だから一緒にやってみようネ!」という教員側の思いも込めて授業づくりをしてきました。そうした時は、その子なりの受け入れやすい工夫を加えています。 子どもは一人ずつ違います。子どもによって受け入れやすい姿勢やせまり方、道具の工夫などがあると思いますので、先を見通しながらその子にあった活動を組んでいくことが必要です。 型はめや玉さし、ジグソーパズルなど“黙々とやるから”“できるから”といって作業的なものを中心とした授業は、むしろこだわりを強めていき社会性をせばめていくことになるのだということを、せめて心の片隅におきながら実践していってほしいと思います。 この時期、子どもと共に様々な文化を共有できる力をうんと拡げていけるとよいと思います。 |
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(1)実態のまとめ (2)題材のおさえ |
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