2.教科への取り組み
(1)さくらんぼグループ
 特に、ゆっくりじっくり関わっていくグループです。長い時間をかけ何年もかけ、ゆさぶりや手あそびなど様々な活動を通し感覚に働きかけ、楽しさを共有しながら先生との関わりを楽しめるようになっていくグループです。
 視線をたぐりよせ「○○ちゃん(くん)」と働きかけ、楽しいことをたくさんやります。その時は、ニコニコと笑うようになってきても“もう一回やってほしい”という表現はなかなか出てきません。“やってほしいな”という思いをたくさん膨らませ、要求としていろんな手段で出せるようになることや、体や手を使っての楽しいことを拡げていくことが、このグループの中心的課題です。
 授業の流れにそって、このグループの活動のねらいを少しお話します。

(1)ゆさぶり
 授業のスタートはゆさぶり遊びです。
 ゆったりと関わり、本日の調子のチェックもします。子どもたちも先生と触れ合いながら、グループの勉強の始まりを楽しい気分で意識していく時でもあります。
 子どもの様子に合わせたグルグルまわしや毛布に乗ってのゆさぶり、トレーニングボールに乗ってのゆさぶり、みんなで乗るブランコなど、体感移動の快の気持ちや肌と肌をふれあいながら、先生や友たちとの楽しい気持ちの交流を育て、身も心もリラックスします。
 繰り返し楽しむうちに、とても良い表情や笑い声がみられるようになってきます。大好きなものだからこそ“もっとやって”と寄ってきたり、時には毛布やトレーニングボールなどを先生の方へ持ってきたり、さらに先生の腕を引きにくるような主体的参加も期待して、それぞれのゆさぶりの歌をうたって子どもの動きを待つこともしながら取り組みます。

(2)リズム運動
 授業は「静」「動」を組み合わせながら展開していきます。「動」のリズム運動では、充分体を動かし次の「静」の活動へとつなげます。
 このグループの子どもたちは、曲を聞き分けて体を動かす手前の段階ですので、曲の変わり目は、先生が補助をします。特に躯幹を中心とした基礎的な力をつけていきながら、楽しく体を動かします。体や手の機能面での課題をもつ子どもたちもいますので、毎日のリズム運動の中で、機能の向上をねらった取り組みも入れていきます。適度な運動を通して、体や気持ちの緊張もほぐれ、ホッと一息です。

(3)あいさつ
 それぞれのグループに合わせ、先生たち手作りの「あいさつの歌」があります。このグループは、ゆっくりとした短い、先生と体をゆすって楽しめる曲です。
 「さぁ、椅子にすわってあいさつをしましょう。」うたいながら誘います。座りこんで首を左右にふって常同行動の世界に入ってしまい、なかなか先生の誘いが気持ちの中に入っていかない子もいますが、なるべく声をかけ手をそえ、自分から先生の待っている方へ気持ちを向けるのを待ちます。
 学校によってやり方は違うと思いますが、目の高さで働きかけやすい姿勢ということで私たちは椅子に座って先生と向かい合います。
 順番に一人ずつ歌に合わせて語りかけます。「おはよう」とゆっくり関わり、始めはこちらから手を合わせタッピング。その時に笑顔が引き出せればよいと思います。

 実は、先生と様々な体験を通して授業全体が楽しいということが感じられてくると、うつむいて自分の世界に入ってしまっている子たちも、このあいさつの部分で自分の正面に先生がくると、顔が上がり目が合いこぼれる笑顔になります。そして、自分の名を呼ばれるとニッコリとするようになります。 「あいさつ」は、先生や授業への子どもたちの信頼や期待感への入口でもあります。

(4)手あそび
 受けとめ方が受身的ですが、そういう段階で、先生にやってもらって充分楽しめることがねらいです。それを充分やってもらうことで、次第に働きかけに対し、意識的に応じる力が出てきます。
 始めるとニコニコと笑顔になったり、手をとると先生が動かそうとする方向に一緒に動かしたりするようになります。それがやがて、手あそびの始まりのところで先生と向かいあって声かけをすると、自分から嬉しそうに手を出してくるという期待感に育っていきます。言葉のもつリズムや響きに応じた動きの複合物ですが、その後の言葉の理解につなげていくために、なるべく言葉の意味とあった動きのあるものを選びたいものです。
 子どもたちは、手あそびが大好きになっていきます。何回でも楽しむようになり、好きな手あそびができてくると、この段階の力が充実してきているといえます。

 以上(1)〜(4)まで、毎日繰り返される前半の授業です。新しい編成の1学期は、この前半の授業が長くとられることになります。

 後半の授業は、ロールマット台車のにぎやかな登場で始まります。本校の廊下には何台もみんなで乗れる乗物が常時あり、廊下を走らせて乗って楽しむ遊びが毎日展開されています。ネコバス、銀(色)バス、箱車など、何年もの日頃の楽しい経験が活かされ、乗物に乗って楽しむことが大好きになっています。
 ロールマット台車は、椅子に乗りさらによじ登りまたがります。意識的に乗る気がないと乗れない乗物ではありますが、その高さのある乗物にまたがって動かしてもらう気分はまた格別なものがあるようです。
 3年ほど繰り返されているこの乗物へは、“乗ろう”という気持ちでどの子もやってくるようになりました。両足を左右に大きく開いて体をぴったりつけ、みんなで乗るということは、日頃体験しにくい股関節をしっかりと開くという体への働きかけの課題も含まれていますし、友だちとの自然な肌のふれあいもあります。楽しいことの自然な共通体験で友だち関係も深まっていきます。
 台車に向かう気持ちがでてきましたので、その手前にトンネルを置き、そこを『くぐってから乗る』という内容も入れられるようになりました。トンネルの前で立ったまま“どうしよう”という子も先生の補助で体を小さくして通ることも知っていきます。自分から状況に応じ、考えて“なんとかしよう”という気持ちを大切に見守っていきます。

 さて、楽しい曲にのって廊下をひとまわり。まるで凱旋パレードのような気分なのでしょうか、笑顔がこぼれ、体をゆすって楽しんでいます。その間に残りの先生は、教室を大変身させています。
 スピードを出したり、回転したり、ジグザグしたりと台車は進み、またもとの教室の前にもどります。台車が止まり、曲が止まり、「到着です。降りましょう。」という先生の声。ここでも、台車を降りる気持ちを大切に待ちます。繰り返しの中で、降りようという子も出てきます。区切りの意識と次への期待が“降りよう”という行動のコントロールを育てていきます。

 いよいよ、後半の授業の始まりです。ここでは、大きく分けて2つのねらいをもって展開します。

1.よくみて考える
 まずは、お話の小部屋に入ります。ペープサートや人形劇などの『見る』活動です。ストーリーの理解というより、視覚的な変化、色、音、光や人形やペープサートの動き、曲の楽しさ、画面の美しさなどを通して、注目し興味をもつことから<よくみて楽しむ>ことをねらいます。
 繰り返してやっていくうちに、“またみたい”という期待感が育ち、心待ちにする姿がみられるようになります。時には、立って画面に手を出し触って見る子も出てきます。そんな時には、子どもと一緒に動かし楽しみます。そうした主体的な楽しみ方を大切にしたいと思っています。


2.さわって感じる・遊ぶ
 このグループの子どもたちは体や手の機能面での弱さや感覚の受入れ口に弱さがみられます。素材や感覚遊び、道具遊びなどに対して興味をもって受けとめられず、遊びが狭くなっています。遊ぶ楽しさよりも自己刺激や常同行動になりやすいので、そこに大人が入り、変化をもたせる工夫をし、遊びを拡げること、自分から意欲をもって手を差し出してくるような働きかけをすることで、様々な素材を感じ楽しむ力を育てたいです。
 授業の流れの中で、常に考えなければならないことは、見通しの力を育てるということです。場面の変化に気づかない、あるいは気づいても動きにつながっていきにくいです。一つ一つの活動が区切れていますので、自分の行動をコントロールすることになりにくいのです。
 自分の働きかけたことで変化が起こるという見通しを持つことや、前の活動と次の活動を繋ぎ合わせるための音楽などを手がかりにして、変化や場面の区切りに気づき次の活動を見通して行動で表わすなど自分から向かう力をつけていきたいものです。

 今回このグループの実践として載せたものは、後半の授業のいくつかです。参考にしてアレンジをすることで、いろいろな集団に活かせるものとも思います。使い方は様々です。使うあなた次第、工夫してみて下さい。

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