(3)追いかけっこ 〜ハラハラドキドキ楽しいな〜
絵本や エプロンシアター
      パネルシアターでおなじみの
             「赤ずきんちゃん」の世界
 
    おおかみの親分や子分に 追いかけられて
                絶体絶命の 大ピンチ!
    必死で逃げて
           「助かった」と おもいきや
     目の前のオリでは つかまった友だちが
            「助けて・・・」と 悲鳴をあげている

    ハラハラ ドキドキ ハァーハァーと
         手に汗にぎる サスペンス 大アクション
   
    あなたは 逃げきれるか
           あなたは なかまを救えるか



(1)原点はこれだ!
 狼の家の中で子どもたちが泣いている。それを取り囲んで、ウロウロと歩き回る3匹の狼。「助けてェー」と、一際大きな声を出して泣いているのは、一番体の大きなケンちゃんです。必死で狼から逃げ延びた子どもたちが、そんな様子を見守っています。狼に捕まってしまったケンちゃんたちは、どうなってしまうのでしょう・・・。

思いを込めて
 「普通、小学生なら経験したことのある“かくれんぼ”や“追いかけっこ”のような遊びができないかな。」これが担当チームの強い強い思いでした。そして、この思いが話し合いの出発点でした。
 
 話し合いを進めて行くと、 「体育館という空間で、“かくれんぼ”は難しすぎるね。」「ルールも分かりにくいんじゃないの。」こんな意見が次々に出されて、“かくれんぼ”は却下。「“追いかけっこ”も難しいよ。」全員しばし沈黙。何かほかの遊びがないか、追いかけっこは無理なのか。頭を抱え込んでしまいました。

 沈黙を破ったのは「怖さを強調すれば、子どもたちは逃げるんじゃない。」という提案でした。どうしたら怖さが強調できるのか。「鬼役のキャラクターを思いっきり怖くしよう。そうすれば子どもたちに雰囲気を伝えられる。」こんなことを考えて、みんなに愛される存在だったキャラクターとの決別を図ったのです。登場するキャラクターは、怖い怖〜い狼に決定しました。

狼=赤ずきん
キャラクターが決定して、次は演出。「ストーリー性を持たせるなら、狼が出てくる『赤ずきん』がいい。」ちょっと安易な発想ですが、この発想をベースにして、初めての“追いかけっこ”『狼なんか怖くない』が、生まれたのです。

迫真の演技で雰囲気を
 ステージの袖から「キャ〜ッ」と、悲鳴とともに登場する赤ずきんちゃん。「私怖い怖〜い狼に追われているの。みんなも気を付けてね。」子どもたちに緊迫した雰囲気を伝えます。
 
 怖しい感じのテーマ曲が流れると、登場するのが親分狼。「おなかがすいた。」と言いながらステージの上で赤ずきんちゃんと追いかけっこ。こうして、狼から逃げることを赤ずきんちゃんが子どもたちに見せて伝えるのです。赤ずきんちゃんも狼も迫真の演技で子どもたちに迫ります。

絶体絶命大ピンチ
 赤ずきんちゃんがフロアーの子どもたちの中に逃げ込んで「狼が来たわ。みんな〜、逃げるのよ〜!」と、子どもたちを巻き込みます。「うまそうな奴がたくさんいるな〜。」狼もフロアーに降りてきて、追いかけっこの始まりです。ここでステージの緞帳を下ろしておきます。ステージわきの入り口が、狼に捕まらない安全地帯への入り口という設定。そこは赤ずきんちゃんの家なのです。分かりやすいように入り口に赤ずきんちゃんの顔を描いたアーチを立てておきます。

 地の底から響いてくるような低音のガラガラ声で、「だれから食べてやろうかな〜。」いつのまにか鬼役の狼も三匹に増えて、子どもたちを脅かしながら追いかけます。手で捕まえるよりも子どもたちが分かりやすいと考えて、狼の手にはフラフープ。このフラフープで捕まった子どもは、フロアー中央に設置した三角ネットの狼の家で捕らわれの身に。家の前では一匹の狼が見張り役になって、「どいつから食べてやろう。」と、家を揺らしたりしながら捕まった子どもたちを脅かします。

 頃合いを見て赤ずきんちゃんが「みんな〜、こっちよ〜。」と、子どもたちを安全地帯に誘って、狼から逃げ切った子どもたちはステージ上で一安心。ところが、「お友だちはみんないるかな。」赤ずきんちゃんが確認していると、スルスルと緞帳が上がり、そこに現れたのは狼の家。捕らわれた子どもたちが「助けて〜」と泣き叫んでいます。三角ネットで作った家だから、捕らわれの身の子どもたちの様子がよく見えるのです。

狼なんか怖くな〜い!
 赤ずきんちゃんと子どもたちは考えます。どうしたら友だちを助けることができるのか。そして、赤ずきんちゃんが一つの提案をします。「おなかがすいている狼に果物をあげよう。そうすれば友だちは食べられなくて済むかもしれない。」赤ずきんちゃんから果物の模型を渡された子どもたちは、勇気を振り絞ってそれを狼に渡しに行きます。

 狼が果物を食べている間に、捕らわれていた子どもたちが逃げ出して一件落着。かと思ったら、もらった果物だけでは満腹にならなかった狼が「おなかが一杯にならない。やっぱりうまそうな子どもを食べよう。」と、再び追いかけっこに突入。捕らわれの身になった友だちを助けるために、もう一度勇気を振り絞って狼に果物を渡しに行くと、今度は満腹になった狼。子どもたちと仲直りして、みんなで楽しくダンスを踊ります。怖い怖〜い集会が、楽しい雰囲気に。

本当にこれでいいの?
 このシリーズの第一回は、流れが少し違っていました。怖い狼は恐ろしいまま去ってしまい、赤ずきんちゃんと子どもたちだけで最後のダンスを踊っていたのです。すると、さっそくその回の反省で「これでいいのかな。子どもたちにとって、狼が怖い存在のまま終わってしまって・・・。」という疑問が出されました。当然の疑問です。

 心優しき教師たちは、みんな胸を痛めていたのです。子どもたちにとっても恐怖の極みを体験した後、「な〜んだ、怖くなかったんだ。」と、ホッとできた方がいいはず。こうして、最後に狼と仲直りし、ホッとして、楽しく終わる内容に変更されたのです。


(2)子どもの力は無限だよ
不安のスタート
 「子どもたちにこんな力を身につけてほしい」という教員の思いが先行して、子どもたちの反応も予想がつかずに疑心暗鬼でスタートした“追いかけっこ”。子どもたちは、私たちが投げた未知のボールをしっかり受け止めてくれたようです。

 初めのころは、ケンちゃんのように恐怖のあまり泣き出す子もいました。ちょっぴりやり過ぎの感じですが、そこまでしっかり雰囲気を作り、子どもたちがその雰囲気をしっかりと受け止めたからこそ、“逃げる”という行動に結び付いたのだと思います。こうして、子どもたちが秘めた力を発揮することで、“追いかけっこ”が成立したのです。

 しかし、怖いばかりでは子どもたちが嫌になってしまって、繰り返し取り組むことはできなかったでしょう。最後にほっと安心できるストーリーにしたことで、「またやってみようかな」という期待感が子どもたちの中に生まれていたようです。

怖くなくても“追いかけっこ”
 怖い狼が登場する“追いかけっこ”を繰り返すうちに、子どもたちに変化が見られるようになりました。大好きな先生に「待て待て〜」と、追いかけられてニコニコ笑顔で逃げて行く。普段の遊びの中で、そんな光景を目にすることが多くなったのです。その中にあのケンちゃんの姿もあります。

 この変化の要因はどこにあるのでしょう。それは、集会の“追いかけっこ”の分かりやすい内容構成にあるのではないでしょうか。怖い狼が、ワーッと出てきて逃げるといなくなる。また出てきて、逃げるといなくなる。必ずこの同じパターンが繰り返されることで、“追いかけっこ”の活動の流れが分かる。だから、怖い怖〜いキャラクターがいなくても、“追いかけっこ”そのものの活動を楽しめるようになってきたのでしょう。

 子どもの様子が変化すれば、集会の内容も変わります。子どもたちを恐怖のどん底に突き落とすような怖〜いキャラクターは、もう必要ありません。分かりやすい内容構成は継続して、「こうしたら安心だ」という見通しを持ちやすくしています。怖くなくても“追いかけっこ”なのです。

定番の仲間入り

 こうして、教員の思いが先行し、胸を痛めながら取り組んだ“追いかけっこ”も集会の定番となったのです。

    実践編に行く >          次の題材へ >>              目次